あひる日記

工学系大学院生の備忘録

【論文紹介メモ】バイオベースのカテコール系接着剤の配合パラメータを検討

バイオベース(PLA)のイガイ模倣ポリマーの配合パラメータを系統的に研究し,市販の石油ベースの接着剤と競合できることを示した.

  • 今日は,”Deriving Commercial Level Adhesive Performance from a Bio-Based Mussel Mimetic Polymer(バイオベースのムール貝模倣ポリマーから商業レベルの接着性能を導き出す)”という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク

    • Siebert, H. M., & Wilker, J. J. (2019). ACS Sustainable Chemistry & Engineering7(15), 13315-13323.
  • これはパーデュー大学のWilkerのグループによる研究である.(研究グループへのlink→リンク

    • 手術やその他の用途で使用する海洋生物学的接着剤に焦点を当てている研究グループ

背景  石油由来の接着剤に代わるバイオベース接着剤の開発が望まれている.市販のバイオベース接着剤は,接着性能の低さ,価格の高さ,あるいはその両方により,一般に市販の石油系接着剤に劣る.さらに,再生可能または環境に優しい接着剤は,石油系接着剤よりも耐水性や耐薬品性に劣ることがよくある. 強力な接着剤に向けて,これまでにもイガイの接着機構(DOPA)を組み込んだ共重合体が研究されているが,これらは石油由来のモノマーを利用している.

目的  カテコールPLAを開発した.接着強度は許容範囲内であるが,市販の石油系接着剤と十分に競合するためには接着強度を向上させる必要がある.接着性を向上させるため,配合パラメーターの系統的な検討を行った.

方法       先行研究に倣い,ポリ乳酸をオリゴ(メチレンジオキシマンデル酸)とオクタン酸スズ(II)触媒で共重合した後,p-トルエンスルホン酸を反応させてメチル基を除去し,カテコールを露出させた.ポリマーのカテコール含有量は7mol%であった.

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結果①   架橋剤を架橋剤1:カテコール3のモル比で添加した.硝酸鉄(III)または二クロム酸テトラブチルアンモニウムで最も高い接着をを示した.鉄は二クロム酸よりも毒性が著しく低く,イガイの接着機構とも近いため,選択された.架橋剤濃度は,Fe(NO3)3架橋剤:カテコールのモル比が3:1の時に接着強度最大となった.

結果②   ポリマー濃度を検討した.粘度に大きな影響を与え,表面の濡れや機械的なインターロッキングに影響を与える可能性がある.最も高い接着力が得られたポリマー試料の濃度は,ポリマー単独および鉄で架橋した試料の両方において0.3 g/mLであった.ポリマー濃度が高く,硬化温度が低いと,ポリマー内にアセトン溶媒が残存して硬化が不十分となり,接着強度が低下すると考えられる.

結果③       硬化時間と硬化温度は.これまでの研究から,硬化温度が低いほど硬化時間は長くなり,媒が残留して延性が増加する.温度が高いほど硬化時間は短くなり,溶媒の沸点を超える高い温度では一般に強度は高いが脆いポリマーになる.70℃6時間の硬化条件が採用された.

結果④       ガラス繊維と2種類の炭酸カルシウム(ステアリン酸でコーティングした70 nmとコーティングしていない3.5 μm)をフィラーとして添加した.ポリマーとフィラーの相互作用およびフィラーの特性(形状,寸法,表面改質,弾性率,フィラー量など)を考慮する必要がある.フィラーが多すぎると過架橋や機械的ストレスの集中により有害な場合がある.コーティングされていないCaCO3を70 wt% 添加したとき,鉄架橋の場合3.5 μm の炭酸カルシウムを 50 wt% 添加したとき,最大接着強度を示した.

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結論       トウモロコシを原料とした分解性があるPLAに接着性を持たせることに成功した.架橋剤の種類,架橋剤の添加比率,ポリマー濃度,硬化時間と温度,フィラーの添加など,いくつかのパラメータが接着性能の向上を可能にするとわかった.

意見       接着剤の耐久性や保存性の評価も必要なのではないか.イントロでも述べられていたように,石油系市販接着剤を代替するには,競争力のある接着を実現する必要があると思った.

  • メモ
    • 今回のカテコール-PLAがテフロンと接着した理由はまだよくわかっていないが,仮説として,イガイが使用するDOPA部位の場合,酸化されてラジカルを生成することができ,このラジカル生成により,表面または材料中の未反応モノマーに直接テフロンへの結合を助けることができる