あひる日記

工学系大学院生の備忘録

論文 - Instant tough bioadhesive with triggerable benign detachment

Instant tough bioadhesive with triggerable benign detachment Chen, X. et al. PNAS, (2020) 117(27), 15497-15503.

さまざまな湿った動的組織に瞬時(5秒以内)かつ強靭な(界面靱性400 J m -2以上)接着を形成し,必要に応じて接着組織から良好に剥離できる生体接着剤を報告する.

現在の外科手術では創傷を閉じ,止血し,埋め込み型デバイスを組織に取り付けるために,ステープルや縫合糸などが利用されている. それに対して,使いやすさ,気密や防水性能,組織損傷の最小化などの利点から生体接着剤が注目されている.
近年の生体接着剤としては,イガイ由来の接着剤,ナノ粒子溶液,紫外線 (UV )硬化型組織接着剤などの種類が開発されてきたが,迅速かつ強固な接着で剥離可能な接着剤は得られていなかった.

生体接着剤の問題点
接着形成の遅さ
結合の弱さ
・生体適合性の低さ
・組織との機械的適合性の低さ
誘発可能な良性剥離の欠如
特に剥離に関しては,さまざまなタイムスケールの剥離が求められる.例えば,外科的術中の一時的な生体接着剤の除去の場合は数分から数時間以内,治癒後の除去の場合は数日から数週間後.

具体的な接着剤の合成や,接着メカニズムは以下の通りである.

乾燥状態で切断可能なN -ヒドロキシスクシンイミド (NHS) エステルでグラフトされたポリビニル アルコール (PVA) とポリ(アクリル酸) (PAA) の相互侵入ネットワークから構成され,
1. 吸湿性の高い PAA ネットワークによる界面水の除去(dry cross-linking mechanism)
2. 水素結合や静電相互作用などの瞬時の物理的架橋が同時に形成 (5分未満).一方で,カルボキシ基の中和によって物理架橋は減っていく.
3. PAA ネットワークにジスルフィド結合でグラフトされた開裂可能なNHSエステルが組織表面の第一級アミン基と共有結合架橋 (アミド結合)し,長期的な接着を実現する
4. 重炭酸ナトリウム (SBC) とグルタチオン (GSH) からなる生体適合性トリガー溶液によって,生体接着剤の組織表面との物理的および共有結合的架橋が切断される. SBCによって水素結合の物理的架橋のpH依存性脱架橋が生じ,GSHによってジスルフィド結合が切断されてチオール基になる.
の4段階を通して,接着および剥離が生じる.(B,Cは(4)剥離段階を示している)

Image from Gyazo

FT-IRによって,接着剤内にカルボキシ基,NHSエステル,ジスルフィド結合が存在することを確認.
一級アミン結合蛍光マイクロビーズを接着剤に導入して,剥離におけるトリガー溶液の効果を確認した.SBCのみだと蛍光は減り,SBC+GSHだと蛍光がほぼ消滅する.よって,トリガー溶液の2種類の物質によって,カルボキシ基とアミンとの水素結合および側鎖内部のジスルフィド結合がそれぞれ切断され,剥離が生じていることがわかる.
接着試験は,ブタ皮を用いた180° peel testを行い,1 kPaの圧力を5秒加えるとさまざまなpH(pH2〜8)で400 J m -2を超える界面靭性を示した.
剥離における接着試験を実施した.接着時間を変えて,トリガー溶液の影響を調べた.1分時点ではSBC(物理架橋切断)による接着力低下が大きく,30分時点ではSBCとGSHで同程度,12時間後にはGSH(スルフィド結合切断)による接着力低下の寄与が大きくなっていることがわかった.0.5 M SBC および 50 mM GSH を含む PBS のトリガー溶液が,さまざまな接着時間に対する剥離トリガーとして有効であることがわかった.
ラットの皮下腔の筋肉層に生体接着剤を接着し,生体内での接着・剥離有効性を調べた.接着が確認され,組織学的評価から接着および剥離の生体適合性が示された.
応用先として,手術中の縫合用接着剤の貼り直しと,術後の中長期的な接着を調べた.ブタ臓器の手術デモにおいて,トリガー溶液の適用後5分以内に簡単かつ無害な方法で容易に除去し貼り直して気密性を得ることができた(接着性の低下なし).
埋め込み型デバイスの貼り付けへの応用.デバイスに付着した接着剤にトリガー溶液を浸透させるために,パターンをもつ形状をしたデバイスを設計した.迅速かつ強力な接着を形成し,必要に応じて取り外すことができることを実証した.

・デモ動画がめちゃくちゃきれい.理想的と言ってもいいような剥離可能接着剤に見える.
・膨潤した生体接着剤は,7 倍を超える伸縮性と 1,000 J m -2を超える破壊靱性を備えた非常に伸縮性の高い強靱なヒドロゲルの薄層になるが,一方でこれだけの伸縮性はいらない部位ではどうやったら伸びにくくなるのか.
・接着剤自体は体内で分解されたりしないのか.
・何日間接着力が維持されるのか.接着剤除去のためにもう一度術野を広げないといけないのはあんまり好ましくなさそう.

論文 - Rapid fabrication of physically robust hydrogels

"Rapid fabrication of physically robust hydrogels" Bao B., et. al. Nature Materials (2023) 1-8.

ハイドロゲルは水を多く含むために生体適合性が高いため,有用な材料である.一方で,機械的特性がイマイチなことと製造プロセスに時間がかかることの2点から,用途が限られている.
そこで,以下のような特徴を有するBIN(biomimetic interfacial-bonding nanocomposite)ゲルを開発した.
・光架橋による迅速な合成
・剛柔な界面を持つ微細構造による,エラストマーと同等の高靭性・高引張強度 (biomimetic interfacial-bonding nanocomposite gels)


これまで,ゲルの機械的特性向上戦略として,double-network(DN) hydrogelsが開発されたが,靭性(toughness)と強度(strength)のトレードオフに悩まされてきた.また,架橋や浸漬などに時間がかかるため,機械的特性と加工性とのトレードオフも生じている.例えば,光硬化ゲルは加工性は高いが,機械的特性は低い.

Image from Gyazo
Fig. ダブルネットワークゲルの例(文献).イオン架橋(赤)と共有結合(緑,青)が共存している.

ここで,自然界にある機械的特性の優れた材料として,貝殻や骨,真珠層などの微細な複合材料に注目した.微細構造によってエネルギーが分散し,機械的特性が向上する.加えて,微細構造の粒界での相互作用が強力であることも重要となる.

今回のハイドロゲルでは,HAMA(methacrylate-grafted hyaluronic acid)を硬質層に,NBPEG(o-nitrobenzyl alcohol-terminated tetra armed polyethylene glycol)を軟質層に用いた.具体的には,HAMAとNBPEGと光開始剤を混合した水溶液に光を照射すると,HAMAが重合し顆粒を形成,同時にPEG末端のNBが光分解されラジカルを生じて特異的にHAMAの炭素と共有結合し,数秒のうちにゲル化が完了する(PTPC反応).ちなみに,このゲルの構造は,ムール貝の足糸の吸盤とそっくりである.

Image from Gyazo

ゲルの機械的強度は,硬質層の割合に依存している.
PEG(軟質層)に対するHA(硬質層)の割合が0.04〜0.10と低いと,引き裂きエネルギー(tearing energy; 亀裂伝播に対する抵抗を表す)と,破壊仕事(work of fracture; 破壊を引き起こすのに必要なエネルギー)とが大きな「丈夫なゲル(tBIN gel)」となる.特に靭性はDNゲルよりも高く,クモの糸に近い値を示した.
HA(硬質層)の割合が0.10〜と高くなると,15.31 MPaと高い引張強度を示し「強いゲル(sBIN gel)」となった.靭性は低下しているので脆性破壊を示す.
PEG上のグラフト化度が増加するにつれて,引張強度や破壊仕事量が増加し,界面がより強くなっていることが示された.

ここで,PEG末端のNBをMAやAA,SHに置き換えると,自己架橋が起きてしまい,うまくいかない.また,他に比べてNBはPTPC反応速度定数が著しく高いこと,疲労耐久性が維持されることから,PTPC反応によるHAMAとNBPEGの優れた界面結合が示された.

以上の優れた機械的強度と迅速な加工性から,3Dプリンターへの応用を行った.複雑な構造を自立させてプリントすることに成功した.

分離した相を形成し,それらをPTPC反応で結びつける手法は,PEGではなく他の線状ポリマーでも応用が可能.多種多様なポリマーから強靭なゲルを得ることができる.また,これまでエラストマー強化のために必要とされてきた乾燥・膨潤の繰り返しプロセスを省略することができる.
Image from Gyazo


まとめると,「PTPC反応によって,相分離微細構造を持った強靭なゲルを様々なポリマーで作れるようになった」ということだろうか.メッセージははシンプルだが,シミュレーションやデータが多い.

とにかく,効率的なPTPC反応が今回の重要なポイントらしいので,振り返ってみる.
PTPC反応(photoriggered transient-radical and persistent-radical coupling reaction)は,Extended Data Fig.1f, Supplementary Figs.4,5

  1. o-ニトロベンジルアルコール(NB)基が典型的な光分解反応を受けて o-ニトロソベンズアルデヒド基に変換され,これが LAP(光開始剤)ラジカルと反応して持続性ニトロキシドを生成

  2. ニトロキシドがHAMA内のメタクリレートの重合によって形成された炭素中心のラジカルを捕捉

【論文紹介メモ】ガロール基導入エポキシ接着剤

ガロール基を導入したエポキシ接着剤が高い水中接着力を示し,基板の表面処理の影響が検討され,低温下でも接着力を維持,熱水耐久性も示した.

  • 今日は,”Biomimetic epoxy adhesive capable of large-scale preparation: From structural underwater bonding to hydrothermal durability(大規模な調製が可能なバイオミメティックエポキシ接着剤:水中構造物への接着から水中熱耐久性まで)”という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク
    • Li, G., et al. (2022). Chemical Engineering Journal431, 134011.
  • この論文は中国工程物理研究院(CAEP,China Academy of Engineering Physics)のYinyu Zhangのグループ(?)による研究です.

背景  ムール貝から着想を得たバイオミメティック接着剤は,乾燥状態でも湿潤状態でも有望な接着材料である.一方で,より高い接着性能(≥5 MPa)とスケールアップが急務である水中建設用接着剤としての応用に適した材料はほとんどないのが現状.

目的  生体模倣型カテコール系マンニッヒ塩基エポキシ硬化剤(CMB)をヘクトグラムスケールで調製し,水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテルを組み合わせて,速硬化性二液型エポキシ接着剤を設計した.

方法       硬化剤は,パラホルムアルデヒド,アミン類,フェノール類の一段階マンニッヒ反応により合成した.パラホルムアルデヒドをDETAに溶解させた後,4-tert-butylcatechol溶液に滴下し還流.減圧蒸留して残留溶媒と水を除去して室温まで冷却し,乳白色の粘性液体「DETA-CMB」を得た.他の硬化剤も同様の手順で調製した.混合割合は,水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂のエポキシ価および,プリスティンアミンまたは変性アミンの理論活性水素当量から算出し,変性アミンの理論活性水素当量はフェノールまたはカテコール類似体が完全に反応したと仮定して算出した. 得られた硬化剤は,エポキシ樹脂の水素化ビスフェノールAのジグリシジルエーテル(DGEHBA)とよく混合し,両金属基材に塗布して,24時間室温で予備硬化,必要に応じて60℃で4時間ポストキュアを行った.その後,剪断引っ張り試験を行った.水中では72時間の硬化時間を採用した.

結果①       アミン部分とカテコール基部分の構造を変えた硬化剤を合成した.1H NMR,13C NMR,FT-IR,UV-visによって合成の成功を確認した.DETA-CMBエポキシ接着剤の接着強さのみが,有意な接着力の向上を示した.接合部は,他の接着剤よりも凝集破壊領域が多く,界面相互作用が強化されていることがわかった.DETA-CMBの接着性能の向上は,適切なアルカリ環境とカテコール基の適切な含有量に起因していると考えられる.硬化剤とエポキシ樹脂の最適な添加量を検討したところ,アミン理論値付近で最も接着強度が高くなることがわかった. カテコール部位とフェノール部位の効果を比較するために,対照群としてDETA-PMBを用意した.カテコール部位がフェノール部位よりも接着強度が高く,硬化時間から求めた硬化活性および,示差走査熱量計を用いて評価した硬化活性化エネルギーも,「DETA-CMB > DETA-PMB > pristine DETA 接着剤」の傾向を示した.

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結果②       基板表面の物理的特性は,機械的インターロッキング効果や接着剤の濡れ性の変化を通じて,接着強度に大きな影響を与える.結論の信頼性を高め,ここで報告した接着強度が他の報告データと広く比較できるよう,異なる基材や表面に対する3種類の接着剤の接着強度を同じ実験条件で測定した.

  • 鏡面加工Al(表面粗さなし),polished Al基板(研磨.デフォルト),サンドブラスト加工した3種類のAl基板.鏡面加工と研磨では,接着強度の大きな違いはなく,機械的インターロッキングの影響を排除するのに十分であることが示唆された.3種のサンドブラスト処理面に対するDETA-CMBの接着強度は,いずれも19 MPa以上であり,両者の有意差はほとんど認められなかった.DETA-CMBの使用により,機械的相互作用の弱い表面でも良好な界面相互作用が得られ,2つの対照群では粗さに強く依存することを示唆する.
  • また,DETA-CMBにおいて,化学的表面処理を行ったアルマイト処理およびシランカップリング剤(SCA)処理と,研磨処理とでは大きな差は見られなかった.
  • 異なる金属(真鍮(Cu),ステンレス鋼(SS),炭素鋼(CS))およびレッドオーク材に対する3種の接着剤の接着性能について検討したところ,CMBが一般的な構造金属に対する界面補強の効率を維持できることが示された.

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結果③       乾燥(D),蒸留水(W),人工海水(SW)条件下でさまざまな金属表面に対する接着剤の接着特性を試験した.すべての条件下でDETA-CMBの接着強度は,他2種(DETA-PMB,pristine DETA)よりも有意に高かった.また,DETA-CMBは水中環境下でもその乾燥接着強度を十分に維持できることがわかった. 水中接着強度に及ぼす表面粗さの影響についても検討したところ,サンドブラスト処理において,水中環境においては機械的なインターロッキングの影響が依然として大きいことが示された.また,SS#80はAl#80よりも水中での接合に適していることが分かり,これはカテコール部位がAl3+イオンよりもFe3+イオンと強い相互作用を持つことに起因すると考えられる.

結果④       質量濃度の異なるNaCl(0.9,1.8,3.6,7.2 wt%)の模擬海水およびpHの異なるPBS溶液で接着強度をテストした.溶液中のイオンが金属表面とエポキシ接着剤中の極性基との界面に負の影響を及ぼすため,いずれの接着剤でも接着力は低下した.すべての接着剤の強度が溶液の pH の増加とともに低下することを示し,これはアルカリ性環境ではフェノールと金属酸化物の間の相互作用が弱くなるためと考えられる.

結果⑤       海洋温度は一般に陸上温度より低く,平均温度範囲は1~5 °Cである.一般的な接着剤の多くは,水中ではこのような低温で硬化させることができない.水中4℃での接着特性を調べた.さらに,低温では接着剤の流動と硬化がさらに制限され,金属表面への濡れがより困難になるため,すべてのエポキシ接着剤の0℃での水中接着強度は,4℃での接着強度よりも著しく低くなる.カテコール基による界面活性効果が0℃で有効であることが示された.

結果⑥        熱水環境での耐久性を調査した.いずれの接着剤も 4 day の水熱処理後に接着強度が著しく低下しており,これは界面水和によるものと考えられ,カテコール基でもアルマイト加工(陽極酸化)の助けなしに極高温液体環境の攻撃に完全に対抗できないことを示した.一方で,DETA-CMBの残存結合強度は,他の2つの基含有接着剤よりも一般に高いことから,熱水侵入に対する完全な耐性についてはさらなる検討が必要であるが,コントロール群よりも熱水環境下で長寿命を実現すると考えられる.

結論  CMBエポキシ接着剤は,独立した架橋戦略と相乗効果の利点に基づき,4℃の水中環境下でも乾燥接着強度を維持できる(9.0MPa).サンドブラスト処理したAl基板は,適度な硬化により,化学修飾後と同程度の接着強度を得ることができた.このことは,CMBエポキシ接着剤と研磨Al基板間のカテコールによる界面相互作用が,化学的表面処理による接着と同程度の品質の接着をもたらすことを示唆している.水熱耐久性試験から,カテコール含有エポキシ接着剤はフェノール含有接着剤よりも長寿命であることが明らかになった.

意見  接着剤の混合割合の検討がよくわからなかった.分子量の検討は行われたのだろうか.

  • 水中接着の困難
    • 目指すもの:完全接着
      • 類似または非類似の材料の界面が合体し,破壊による亀裂が接着剤または被着体のバルク内で伝播することと定義
      • 接着剤/被着体の界面は弱く可逆的な非共有結合で結合されていることが多く,一方で接着剤や被着体のネットワークは強く不可逆的な共有結合を含んでいるため,完全な接合を実現することは困難.
      • 接着剤/被着体の界面相互作用を改善することが重要
    • 特に水中での接着は,表面水が基材表面基と競合して接着剤官能基と相互作用し,接着剤と被着体の直接接触を妨げるため,より困難である
      • 一般的な接着剤は,水中では境界層による干渉のため,基材に効果的に接着することができず,乾燥接着強度に比べて低い接着強度となる
    • 初期の接合強度は良好と考えられるが,水中接合と同様に熱と水分からなる熱水環境に曝されると接合品質が低下し,接合部が破壊することさえある
      • 接着剤の寿命,すなわち接着剤が特定の環境下で規定の強度を維持できる時間は実用上極めて重要な要素
      • 極端な熱水環境が接着接合部の強度に及ぼす影響は,過去数十年にわたり研究優先度の高いテーマである.ほとんどの研究は,SCA 処理,陽極酸化サンドブラストなど,接着剤と被着体の親和性を高めるための金属表面の処理に焦点をあてている.これらの処理には時間がかかる,あるいは環境に優しくないという欠点があるため,機能性接着剤に基づく新しい戦略が望まれる.
      • カテコール系接着剤による界面相互作用の強化が耐久性向上に役立つ可能性を示唆
        • Polydopamine and Polydopamine–Silane Hybrid Surface Treatments in Structural Adhesive Applications
    • 過去数十年の研究により,水中用接着剤の設計と調製の鍵は排水にあることが明らかになっている.
  • ここで注目されているのが,イガイの接着構造カテコール
    • 1981年,WaiteとTanzerが海産イガイの粘着パッドの粘着特性を初めて報告
    • カテコールとその類似基は,接着剤が表層水を透過して,接着剤と基材表面の間に強力な結合を形成することを可能にすると考えられている
  • 現在のBio-inspired接着剤の問題点
    • 塗布のために溶剤を必要とする→環境問題
    • カテコール基の補強効果を最適化するために重要な,カチオン,疎水性基,アルカリ性環境の基本的相乗効果は無視されている
    • カテコール基の酸化架橋(金属やその酸化物との界面相互作用に劣る)を起こすと,凝集力と界面相互作用の間でトレードオフが生じて,接着強度をさらに高める妨げになっている
    • 構造用水中接着剤にはより高い接着性能(≥5MPa)が要求される
  • エポキシ系接着剤(エポキシ樹脂と硬化剤からなる構造用接着剤)
    • 接着剤の極性基(アミノ基,水酸基エーテル結合など)と基板表面の極性基との相互作用が水によって劣化するため,高い水中接着強度を有するエポキシ接着剤は知られていない
    • マンニッヒ塩基系硬化剤
      • フェノール類,ホルムアルデヒド,アミンのワンポット縮合反応から合成される
      • その速硬化性と合成プロセスの簡便さから,長年にわたりエポキシ樹脂の合成によく用いられる工業製品
  • 提案手法
    • カテコール系マンニッヒ塩基硬化剤(CMB)は,4-tert-ブチルカテコール(TBC),パラホルムアルデヒド,ジエチレントリアミン(DETA)のワンポット縮合反応によって精製なく合成された.これに,市販液状エポキシ樹脂である水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル(DGEHBA)を組み合わせて,速硬化型の二液型エポキシ接着剤を設計した.
    • アミノ基とエポキシ基の開環反応により,カテコール基を消費することなく架橋点が形成された.
    • CMBのアミノ基の相乗効果と,アルカリ性は,カテコール基にとって有益な環境を提供し,界面相互作用を強化すると期待
  • サンドブラスト処理 Al の乾燥接着強さ(20.4 MPa)は,適度なポストキュアを行うことで,接着に最適な表面として知られ,接着剤の上限となる陽極酸化 Al やシロキサン処理 Al の乾燥接着強さに匹敵する値を示した。我々の知る限り,カテコール系接着剤でシロキサン処理面と同等の強度を得ることができた既報はない.
  • アルカリ性環境ではフェノールと金属酸化物の間の相互作用が弱くなる
    • Dopamine-Mediated Polymer Coating Facilitates Area-Selective Atomic Layer Deposition (2021)

【論文紹介メモ】PVAとTAを混合したVATA水中接着剤

PVAとTAを混合したVATA水中接着剤を調製した(70 kPa程度).エポキシ系接着剤やシアノアクリレート系と比べて,再接着性,低毒性,長硬化時間,といった利点を示した.

  • 今日は,”VATA: A Poly(vinyl alcohol)- and Tannic Acid-Based Nontoxic Underwater Adhesive(ポリビニルアルコールとタンニン酸をベースにした無害な水中接着剤VATA)”という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク

    • Lee, D. et al. (2020). ACS applied materials & interfaces12(18), 20933-20941.
  • これはDepartment of Chemistry, Korea Advanced Institute of Science and Technology (KAIST)の, Laboratory for Bio-inspired NanoEnergy Materials (Prof. Haeshin Lee)研究グループの論文です.

背景  エポキシ系やシアノアクリレート系の接着剤は湿潤環境下で広く使用されているが,エポキシ系接着剤の場合は湿潤環境下にさらされると接着力が低下・長い硬化時間(24時間程度)を必要とする.また,特にシアノアクリレート系は水と接触すると極めて速く硬化するため,作業時間が極端に短くなる.さらにこれらの接着剤にはある程度の生物毒性があることが広く知られている.水中接着における水中作業時間の短さ,急速な固化・硬化,再利用性の低さに対応した水中接着剤が求められている.

目的  再使用型接着と水中接着の2つの特性を持つ水中再使用型接着剤の開発を目指す.ポリビニルアルコール(PVA)とフェノール化合物であるタンニン酸(TA)の単純な混合物を調製し,再利用可能な接着性を有する水中用接着剤を作製した.

方法       TA溶液および85℃で24時間撹拌してPVA溶液を調製.TAおよびPVA溶液の最終濃度は,1.25,2.5,5,10,20,30および40wt%であった.X wt%のPVAとY wt%のTA溶液を4gずつ混合,3000rpmで20分間遠心分離し,上澄みを取り出して粘着部(VATA)を回収した. 40wt%のPVAおよびTA溶液を調製,10M濃度の尿素溶液と1:1の重量比で混合したのち,VATAを調製した. 水中接着試験では,VATA20-20を0.6g水中でSUS大円筒に塗布後,0,1,24時間静置した後,別のSUS製大円柱でVATAを上側から3秒間押圧し,持ち上げた.

結果①       TAとPVA溶液を混合すると凝集沈殿が形成される.これは水素結合が即座に形成されることに起因する.少なくとも24時間安定化させると,VATA接着剤の粘度上昇に示されるように,さらなる水素ネットワークが形成される.

結果②       PVAとTA溶液の濃度を変えて接着強度を測定した.TAとPVA鎖の相互作用が臨界点を超えると,ほとんどのPVA鎖はTAによって効果的に沈殿させられる.VATAを強固に接着させるための最適な組成は,PVA/TA重量比1:1であることが判明した.PVAが過剰な場合(PVA量>TA)一般的に十分な接着強度が得られないことが確認され,TAが過剰な場合,過剰なTA分子はPVAと分子レベルの複合体を形成しないため1:1の比率に比べて接着強度が低下した.

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結果③       カテコール系粘着剤は,塩基性pH環境下では粘着力が低下することが知られている.VATAの接着に対するpH値の影響を検討した.pH10(34.9kPa)では、酸性(〜pH3; 69.0kPa) や中性(〜pH7; 34.9kPa) に比べて接着力が低下した.主にカテコールからキノンへの変換とカテコールアダクトの形成により,他のカテコール系粘着材料で示されたのと同じ傾向を示したと考えられる.一方で,VATA 20-20はpH条件に関わらず,24時間水中に放置しても全体の接着強度は大きく低下しない

結果④       中性pHの条件下で塩化ナトリウムと塩化カリウム(最終0.1M)を添加し,イオンの影響を調べた.Na+の場合,接着強度は69.4から64.8kPaにわずかに減少した一方で,K+では24時間暴露後に接着強度が69.4から77.0kPaに増加した.

結果⑤       再利用性と被着材の検討.10回の繰り返しでVATA20-20はほぼ100%の接着強度を維持した(約72kPa).金属(SUS、鉄(Fe),アルミニウム(Al),銅(Cu)),ポリマー(ポリスチレン(PS),ポリメタクリル酸メチル(PMMA),ポリエチレン(PE),ポリ四フッ化エチレン(PTFE)),セラミックス(ソーダライムガラス、アルミナ)など,さまざまな素材表面に接着可能.材料に依存しない挙動は,様々な固体基材に接着するTAのユニークな能力によるものである可能性がある.

結果⑥       毒性実験.蒸留水とVATA20-20抽出液の中で泳ぐC. elegans (線虫とラットのLD50毒性には良好な相関がある)は,24時間後にはほぼ100%生存しており,水中接着剤としてのVATAが生物に対して無毒であることを示した.生きた金魚を入れたガラスの水槽の中に,透明なアクリルパイプを積み重ねて168時間放置したところ,水槽内の金魚がすべて運動性を低下させることなく生きていた.

結論       VATAは,タンニン酸とPVAの混合溶液という非常にシンプルな方法で,水素結合により容易に調製された.VATAは水に触れても24時間という非常に長い作業時間を示した.金属,セラミックス,ポリマー(PTFEを含む)など,さまざまな素材にわずか数秒で接着可能で,再接着も可能であると示された.また,無脊椎動物である線虫と脊椎動物である金魚を用いて,短時間(約168時間)であれば動物に対する毒性はないことがわかった.

  • 現状用いられているエポキシとシアノアクリレート系
    • シアノアクリレート系接着剤は水に対して安定性が悪く,乳化して水分子と反応し,自己硬化して接着力を失う
      • シアノアクリレートは接着力が激減(0時間33.7±3.0kPa,12,24時間で検出せず)
      • シアノアクリレートが1回目の剥離後に水と縮合し固化するため,繰り返し試験の際には2サイクル目ですぐに接着力を失う.
  • タンニン酸+PVAについて
    • 5つの外殻ガロール基と5つの内殻水酸基共有結合した構造
    • タンニン酸による多座結合は高分子鎖を効果的に結合させ,タックと粘度を飛躍的に上昇させる.タンニン酸に加えて高分子成分が必要.
      • ネットワークにおけるポリマー/タンニン酸水素結合相互作用について,PEGとタンニン酸の混合物が水素結合供与体(タンニン酸の-OH)と受容体(PEGのエーテル酸素)相互作用により,水性でありながら耐水性のある生体接着剤が得られる.
    • タンニン酸とPVAは共に固有の接着性を示し,タンニン酸はPVA鎖間を相互接続し,PVA-タンニン酸-PVAネットワークという形でPVAの分子量を飛躍的に増大させることが知られている.
      • PVAは水に溶ける
      • タンニン酸を微量添加して架橋剤として利用したPVAハイドロゲルを用いた先行研究
    • → タンニン酸の量を増やす(約10〜50倍)ことで,タンニン酸特有の水中での粘着性を示す粘着性ゾル状接着剤を調製できるのではないか.PVA/タンニン酸複合体は水和しながらも不溶性のコアセルベート様接着剤となることが期待.

【論文紹介メモ】抗酸化物質によるイガイ接着への対抗

抗酸化物質を含んだコーティングにより,イガイの表面付着強度が低下できる可能性を示唆した.

  • 今日は,”Managing Redox Chemistry To Deter Marine Biological Adhesion(海洋生物付着抑制のための抗酸化化学の活用)”という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク

    • Del Grosso, C. A., et al. (2016). Chemistry of Materials28(18), 6791-6796.
  • これはパーデュー大学のWilkerのグループによる研究である.(研究グループへのlink→リンク

背景  船舶の効率を最大限に高めることが大きなインセンティブとなっており,フジツボ,カキ,ムール貝,藻類,バクテリアなどの付着を防ぐ方法が求められている.現在の防汚塗料は殺生銅剤を周辺海域に放出することで機能しており,環境に優しい方法で生物の付着を防止することが強く求められている.これらはタンパク質の混合物を沈殿させて酸化,高分子同士を架橋して接着剤を硬化させることで接着することがわかっている.

目的  還元剤(還元剤、抗酸化剤)を利用することで,酸化されたタンパク質種を消去し,糊の形成に必要な架橋反応を停止させることができるかもしれない.還元性基質を開発し,動物の剥離に及ぼす影響を検討した.

方法       4種類の有機抗酸化化合物を選択した.コーティング剤への溶解性が十分であること,化合物の周囲への溶出や拡散を最小限に抑えるために水への溶解性が限定的(溶解度約0.1M以下の「不溶性」)であることなどの条件を満たす.

抗酸化物質と対照物質を2.5%および25%それぞれホスト塗料(市販の蒸発性ポリエステル金属下塗り剤)に溶かしてアルミニウムパネルに塗装した.

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結果①       それぞれの表面の水接触角,質感,粗さ,ビッカース硬度,元素組成(EDXによる)を確認した.また,これらのコーティングはムール貝の健康を損なわないことが確かめられた.

結果②       各コーティングはコーティングされていないアルミニウムコントロールよりも低い接着力を示した.抗酸化物質の含有量が25%になると接着力が著しく低下した.エトキシキンはDBTコントロール(63%)に対して接着不良の発生率が高く(96%),このコーティングが他よりも軟らかかった結果だと考えられる.

結果③       各化合物が酸化する電気化学的電位を測定した.25%添加の酸化防止剤表面のイガイ接着データに対する,電位のプロットを見ると,形成された生体接着剤内の酸化前駆体が還元当量によってクエンチされ,それによって全体的な結合が減少する可能性を示した.

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結論       高負荷抗酸化物質がムール貝の表面への接着強度を低下させる可能性があることを示した.

意見       酸化が起きる前に還元物質を用意しておくことで接着力を低下させられるのであれば,酸化が起きた後の架橋を切ることで,接着を剥がすこともできないのだろうか.

【論文紹介メモ】イガイのDOPA含有タンパク質と海中のFe3+との複合化過程の考察

イガイおけるDOPA含有タンパク質とFe3+との複合化が,接着機構にどう関わっているか考察した.

  • 今日は,”Switch of Surface Adhesion to Cohesion by Dopa-Fe3+ Complexation, in Response to Microenvironment at the Mussel Plaque/Substrate Interface(ムール貝プラーク/基質界面の微小環境に対応したドーパ-鉄3+錯体による表面付着から凝集へのスイッチング)”という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク

    • Yang, B., et al. (2016). Chemistry of Materials28(21), 7982-7989.
  • これは韓国の Pohang University of Science and Technology の Cha, Hyung Joonのグループによる研究である.

    • Professor Hyung Joon Cha, of the Pohang University of Science and Technology’s (POSTECH) Department of Chemical Engineering
    • https://www.asianscientist.com/scientist/cha-hyung-joon/

      Cha, who developed a protein-based adhesive inspired by mussels, received the Inventor of the Year Award  from the Korean Intellectual Property Office. Unlike commonly used medical adhesives, the mussel-inspired bioadhesive is biocompatible and strongly adhesive even when wet. Cha has been listed as the inventor of 135 intellectual properties, including 23 international patents, 47 domestic patents, 34 international patent applications and 31 domestic patent applications.

    • 高 DOPA 濃度のタンパク質:In Vivo Residue-Specific Dopa-Incorporated Engineered Mussel Bioglue with Enhanced Adhesion and Water Resistance (2014)
    • 組織接着剤LAMBA:Rapidly light-activated surgical protein glue inspired by mussel adhesion and insect structural crosslinking (2015)
    • ドーパとリジンの相乗効果:The position of lysine controls the catechol-mediated surface adhesion and cohesion in underwater mussel adhesion (2020)

背景  ドーパ-鉄3+の錯形成は、イガイの接着化学における重要な相互作用の1つである.tris-錯体は非常に高い結合定数と安定性を持ち,硬さ,伸展性,自己修復性を付与している.ドーパ-鉄3+の複合化はタンパク質の配列や長さに大きく影響される.

目的  界面イガイ接着タンパク質(MAP)であるdrfp-3F(DOPA ∼17 mol %,6.8kDa) と drfp-5(DOPA ∼23 mol %) の Dopa-Fe3+ 複合体を同定し,Dopa-Fe3+ 複合体が水中凝集力と表面接着力に与える影響を,表面力装置 (SFA) を用いて,凝集力と表面接着力の相互作用を測定することにより検討した.

方法       先行研究に倣い,rfp-3F およびrfp-5は大腸菌から生産した.定常期(チロシンの枯渇)を確認後,培地中にドーパを1mMの濃度で添加し,イソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)の添加によりdrfp-3Fの発現を誘導した.drfp-3Fまたはdrfp-5に10mM酢酸(pH〜3)または0.1Mトリス緩衝液(pH8.0)、1mM FeCl3(ドーパ:鉄3+モル比3:1)を添加して試料を調整した.

結果①       ドーパ-鉄3+錯体は,ドーパが化学量論的にmono-,bis-,tris-ドーパ-鉄3+錯体を形成するため,pHに応じた色の変化で簡単に確認することができる.fp-3F 溶液に FeCl3 を Dopa:Fe3+ モル比 3:1 まで添加すると透明なタンパク質溶液が紫/青に変化,NaOHでpHを上げるとタンパク質溶液はピンク/赤に変化,酢酸でpHを下げるとタンパク質溶液は紫/青に戻るがDOPAが酸化されるため完全な可逆性はない.これはUV-visおよびラマンでfp-5においても確認された.

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結果②       凝集力をSFAで測定した.0.1M酢酸(pH∼3)中にFe3+を含む条件で,drfp-3Fは弱い凝集性相互作用を示した(W = 0.507 ± 0.472 mJ m-2).Fe3+を含む0.1M Tris buffer(pH8.0)は,イガイの足糸が海水にさらされたときに満たす同様の条件である.この条件下で非常に強い凝集性相互作用力(W = 2.126 ± 0.396 mJ m-2)が測定された. Fe3+ を含まない 0.1 M Tris buffer (pH 8.0) の条件では,drfp-3F は弱い凝集性相互作用力 (W = 0.050 ± 0.015 mJ m-2) を示した.この結果は,高pHにおけるdrfp-3FのFe3+との強い凝集力は,O2/baseによる酸化ではなくDopa-Fe3+の錯形成に由来するという説を支持している.

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結果③       表面接着力をSFAで測定した.pH3.0ではFe3+の有無に関わらず接着力は良好であったが(W = 14.728 ± 3.878 mJ m-2),pH8.0でFe3+添加の場合,drfp-3Fの接着力は劇的に減少し,非常に弱い接着力を示した(W = 1.160 ± 0.339 mJ m-2).静電的相互作用が弱い,塩置換が弱い,高pHで正電荷が減少して凝集する傾向があるだけでなく,bis-およびtris-ドーパ-鉄3+複合化後に表面付着に利用できるドーパが限られていることがdrfp-3F表面付着力を大きく失わせた可能性を示唆している.

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結果④       rfp-3F(DOPAなし)とdrfp-3F(DOPAあり)の接着・凝集相互作用をSFAで測定した.足糸界面MAPはドーパを多く含むため,低pHでは表面接着力が強く,高pHではドーパ-鉄3+の複合体形成により凝集力が強くなることがわかった.イガイからの分泌時には低pH環境でMAPが分泌され強く接着,その後海水中の高いpHとFe3+含有量によりドーパ-Fe3+の錯形成が起こり,MAP間の強い凝集が誘導される.

結論       drfp-3Fの表面接着性とDopa-Fe3+の複合化の関係を分析した.これはプラーク/基板界面におけるイガイの接着機構を理解するのに役立つ.Dopa-Fe3+錯体化の応用は,機械的特性を改善するための良い戦略と思われるが,接着剤への処方としては慎重に使用する必要がある.ドーパを多く含むと表面接着と凝集の両方の能力が高まるが,同時に高まるわけではない.Dopa-Fe3+の錯形成による表面接着から凝集への移行は,可逆性を除いて,酸化剤によるDopa酸化の制御と非常によく似ている.

意見       酸化によるDOPA系接着剤の強化について気になった.今回の錯体による表面接着から凝集への移行は,可逆性をもつとのことだったが,DOPAが酸化されるため完全な可逆性はないとのことだった.酸化を防止した状態で利用できないものだろうか.また,この可逆性はMPN(Metal-Polyphenol Networks)と同様の機構である.

  • 表面力装置(Surface Forces Apparatus,SFA)について
  • DOPAを多く含むと接着力は高くなるのか
    • 表面接着と凝集の両方の能力が高まるが,同時に高まるわけではない
    • fp-3Fでも20 mol%ほどである.
      • These proteins were chosen because of their high Dopa content (∼17 mol % for dr fp-3F and ∼23 mol % for dr fp-5), which are close to the Dopa content of natural fp-3F (∼20 mol %) and fp-5 (∼25 mol %) and facile acquisition, compared to the extremely difficult direct extraction from mussels.
    • fp-3Fは比較的柔軟性があり,そのドーパ残基は表面付着のための基質と凝集のための他のドーパ残基の両方へのアクセスが良好であると思われる.
  • 酸化によるDOPA系接着剤の強化

【論文紹介メモ】バイオベースのカテコール系接着剤の配合パラメータを検討

バイオベース(PLA)のイガイ模倣ポリマーの配合パラメータを系統的に研究し,市販の石油ベースの接着剤と競合できることを示した.

  • 今日は,”Deriving Commercial Level Adhesive Performance from a Bio-Based Mussel Mimetic Polymer(バイオベースのムール貝模倣ポリマーから商業レベルの接着性能を導き出す)”という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク

    • Siebert, H. M., & Wilker, J. J. (2019). ACS Sustainable Chemistry & Engineering7(15), 13315-13323.
  • これはパーデュー大学のWilkerのグループによる研究である.(研究グループへのlink→リンク

    • 手術やその他の用途で使用する海洋生物学的接着剤に焦点を当てている研究グループ

背景  石油由来の接着剤に代わるバイオベース接着剤の開発が望まれている.市販のバイオベース接着剤は,接着性能の低さ,価格の高さ,あるいはその両方により,一般に市販の石油系接着剤に劣る.さらに,再生可能または環境に優しい接着剤は,石油系接着剤よりも耐水性や耐薬品性に劣ることがよくある. 強力な接着剤に向けて,これまでにもイガイの接着機構(DOPA)を組み込んだ共重合体が研究されているが,これらは石油由来のモノマーを利用している.

目的  カテコールPLAを開発した.接着強度は許容範囲内であるが,市販の石油系接着剤と十分に競合するためには接着強度を向上させる必要がある.接着性を向上させるため,配合パラメーターの系統的な検討を行った.

方法       先行研究に倣い,ポリ乳酸をオリゴ(メチレンジオキシマンデル酸)とオクタン酸スズ(II)触媒で共重合した後,p-トルエンスルホン酸を反応させてメチル基を除去し,カテコールを露出させた.ポリマーのカテコール含有量は7mol%であった.

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結果①   架橋剤を架橋剤1:カテコール3のモル比で添加した.硝酸鉄(III)または二クロム酸テトラブチルアンモニウムで最も高い接着をを示した.鉄は二クロム酸よりも毒性が著しく低く,イガイの接着機構とも近いため,選択された.架橋剤濃度は,Fe(NO3)3架橋剤:カテコールのモル比が3:1の時に接着強度最大となった.

結果②   ポリマー濃度を検討した.粘度に大きな影響を与え,表面の濡れや機械的なインターロッキングに影響を与える可能性がある.最も高い接着力が得られたポリマー試料の濃度は,ポリマー単独および鉄で架橋した試料の両方において0.3 g/mLであった.ポリマー濃度が高く,硬化温度が低いと,ポリマー内にアセトン溶媒が残存して硬化が不十分となり,接着強度が低下すると考えられる.

結果③       硬化時間と硬化温度は.これまでの研究から,硬化温度が低いほど硬化時間は長くなり,媒が残留して延性が増加する.温度が高いほど硬化時間は短くなり,溶媒の沸点を超える高い温度では一般に強度は高いが脆いポリマーになる.70℃6時間の硬化条件が採用された.

結果④       ガラス繊維と2種類の炭酸カルシウム(ステアリン酸でコーティングした70 nmとコーティングしていない3.5 μm)をフィラーとして添加した.ポリマーとフィラーの相互作用およびフィラーの特性(形状,寸法,表面改質,弾性率,フィラー量など)を考慮する必要がある.フィラーが多すぎると過架橋や機械的ストレスの集中により有害な場合がある.コーティングされていないCaCO3を70 wt% 添加したとき,鉄架橋の場合3.5 μm の炭酸カルシウムを 50 wt% 添加したとき,最大接着強度を示した.

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結論       トウモロコシを原料とした分解性があるPLAに接着性を持たせることに成功した.架橋剤の種類,架橋剤の添加比率,ポリマー濃度,硬化時間と温度,フィラーの添加など,いくつかのパラメータが接着性能の向上を可能にするとわかった.

意見       接着剤の耐久性や保存性の評価も必要なのではないか.イントロでも述べられていたように,石油系市販接着剤を代替するには,競争力のある接着を実現する必要があると思った.

  • メモ
    • 今回のカテコール-PLAがテフロンと接着した理由はまだよくわかっていないが,仮説として,イガイが使用するDOPA部位の場合,酸化されてラジカルを生成することができ,このラジカル生成により,表面または材料中の未反応モノマーに直接テフロンへの結合を助けることができる