あひる日記

工学系大学院生の備忘録

【論文紹介メモ】抗酸化物質によるイガイ接着への対抗

抗酸化物質を含んだコーティングにより,イガイの表面付着強度が低下できる可能性を示唆した.

  • 今日は,”Managing Redox Chemistry To Deter Marine Biological Adhesion(海洋生物付着抑制のための抗酸化化学の活用)”という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク

    • Del Grosso, C. A., et al. (2016). Chemistry of Materials28(18), 6791-6796.
  • これはパーデュー大学のWilkerのグループによる研究である.(研究グループへのlink→リンク

背景  船舶の効率を最大限に高めることが大きなインセンティブとなっており,フジツボ,カキ,ムール貝,藻類,バクテリアなどの付着を防ぐ方法が求められている.現在の防汚塗料は殺生銅剤を周辺海域に放出することで機能しており,環境に優しい方法で生物の付着を防止することが強く求められている.これらはタンパク質の混合物を沈殿させて酸化,高分子同士を架橋して接着剤を硬化させることで接着することがわかっている.

目的  還元剤(還元剤、抗酸化剤)を利用することで,酸化されたタンパク質種を消去し,糊の形成に必要な架橋反応を停止させることができるかもしれない.還元性基質を開発し,動物の剥離に及ぼす影響を検討した.

方法       4種類の有機抗酸化化合物を選択した.コーティング剤への溶解性が十分であること,化合物の周囲への溶出や拡散を最小限に抑えるために水への溶解性が限定的(溶解度約0.1M以下の「不溶性」)であることなどの条件を満たす.

抗酸化物質と対照物質を2.5%および25%それぞれホスト塗料(市販の蒸発性ポリエステル金属下塗り剤)に溶かしてアルミニウムパネルに塗装した.

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結果①       それぞれの表面の水接触角,質感,粗さ,ビッカース硬度,元素組成(EDXによる)を確認した.また,これらのコーティングはムール貝の健康を損なわないことが確かめられた.

結果②       各コーティングはコーティングされていないアルミニウムコントロールよりも低い接着力を示した.抗酸化物質の含有量が25%になると接着力が著しく低下した.エトキシキンはDBTコントロール(63%)に対して接着不良の発生率が高く(96%),このコーティングが他よりも軟らかかった結果だと考えられる.

結果③       各化合物が酸化する電気化学的電位を測定した.25%添加の酸化防止剤表面のイガイ接着データに対する,電位のプロットを見ると,形成された生体接着剤内の酸化前駆体が還元当量によってクエンチされ,それによって全体的な結合が減少する可能性を示した.

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結論       高負荷抗酸化物質がムール貝の表面への接着強度を低下させる可能性があることを示した.

意見       酸化が起きる前に還元物質を用意しておくことで接着力を低下させられるのであれば,酸化が起きた後の架橋を切ることで,接着を剥がすこともできないのだろうか.