【論文紹介】ポリアリルアミンベースのカテコールおよびガロール湿潤接着用ハイドロゲル
ポリアリルアミン(PAA)を,イガイ類接着タンパク質を模倣したカテコール基(CA)およびホヤ類に見られるガロール基(GA)で修飾し,修飾ポリマーのpH変化に伴うゲル化,自己修復,接着特性を比較検討した論文です.
- 今日は,”Tunicate-inspired polyallylamine-based hydrogels for wet adhesion: A comparative study of catechol- and gallol-functionalities(ホヤにヒントを得たポリアリルアミンベースの湿潤接着用ハイドロゲル:カテコールおよびガロールの機能性の比較検討)”という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク)
- Lee, S. Y., et al. (2021). Journal of Colloid and Interface Science, 601, 143-155.
背景 接着性ハイドロゲルは組織接着剤といった医療分野や,ウェアラブル電子デバイスへの応用が期待されている.
目的 湿潤状態でも安定で強固な接着特性をハイドロゲルに付与すること
方法 PAA-GAは,EDC/NHS化学反応を用いて,GAのカルボン酸基とPAAのアミノ基を反応させることにより調製.反応中のガロール基の酸化を防ぐため反応中溶液のpHを〜5.0に調整.PAA-GAを純水に溶解して20 wt%溶液とし,2 N NaOH溶液を用いてpHを7に調整,このPAA-GA溶液を室温で24時間攪拌し,PAA-GAハイドロゲルを調製.
結果① PAA-CAとPAA-GAのゲル化は,それぞれ約18時間と15時間で起こった.ガロール基の酸化状態はUV-visで分析.シッフ塩基反応によりイミン(C=N)を形成していることをXPSで確認,これがゲルの架橋であり自己修復性を付与している.ハイドロゲルの圧縮試験と膨潤試験,SEMによる細孔構造観察,ディスク拡散法を用いた抗菌性評価,
結果② 酸化防止特性をDPPHの色変化を利用して評価した.ガロール基を有するPAA-GAは,より多くのラジカルを捕捉し他の基とより多くの水素結合を形成することができる.さらに,ガロール基はフリーラジカルに部分的に電子を提供,ガロール基をラジカルカチオンに変化させる.
結果③ 接着力をラップシアー試験で評価した.基板はPETフィルム,鉄板,マイカ板,豚皮など.乾燥状態より湿潤状態(PBS溶液)の方が,またPAA-CAよりPAA-GAハイドロゲルの方が接着力が高かった.豚皮で7 kPa程度.
結論 カテコール変性PAA(PAA-CA)およびガロール変性PAA(PAA-GA)を合成し,1H NMR, ATR-IR, UV-visの分光分析によりその形成を確認.pHを調整するだけでハイドロゲルを形成,動的なイミン結合により高い自己修復性,優れた抗酸化活性,乾燥環境よりも湿潤環境において高い接着強度,抗菌性を示した.
意見 水中接着剤としては強度が不十分に思った.ハイドロゲルとしては高いのかもしれない.pH調整下でないと機能しないのか,それとも純水中や他のイオンの存在下でも機能するのか気になる.ゲル化するとカテコールおよびガロール基は酸化されないのだろうか.時間経過に伴う接着力の変化が気になる.
- カテコールの水中接着性発現機構
- 主要な先行研究
- Zhan et al. “Tunicate-inspired gallol polymers for underwater adhesive: a comparative study of catechol and gallol” (2017)
- Hino and Ejima. “Tissue Adhesive Properties of Functionalized Chitosan: A Comparative Study of Phenol, Catechol and Gallol” (2020)
- Zhan et al. “Antioxidant and adsorption properties of bioinspired phenolic polymers: A comparative study of catechol and gallol” (2016)
- 乾燥状態および湿潤状態での接着力の違いについて
- 空気中(乾燥状態)では,PAAポリマーのアミノ基が電子密度をカテコール基またはガロール基側に押し出す傾向があるため,電荷の差が大きくなり,フェノール基の表面付着が増加する.一方水分の存在下では,アミノ基がフェノール基の周囲に位置する水分子を引き寄せるため,フェノール基が基板表面と直接相互作用し,湿潤密着性が向上する.
- 抗菌性について
- カテコール基とガロール基は細菌の細胞壁表面に吸着した後,細菌を物理的に死滅させることができる.また,細菌はカテコール基よりもガロール基に感受性が高いため,より高い抗菌活性を有すると考えられる.
- T. Taguri, et al. “Antibacterial spectrum of plant polyphenols and extracts depending upon hydroxyphenyl structure” (2006)
- カテコール基とガロール基は細菌の細胞壁表面に吸着した後,細菌を物理的に死滅させることができる.また,細菌はカテコール基よりもガロール基に感受性が高いため,より高い抗菌活性を有すると考えられる.