【論文紹介メモ】フェノール系(Styrene, Phenol, Catechol, Gallol)水中接着剤の合成と比較
ガロール基共重合体をMOM基保護法で合成,その方法を他のフェノール系共重合体の合成に応用し,これらの接着力を同一条件下で比較した論文です.
今日は,”Tunicate-Inspired Gallol Polymers for Underwater Adhesive: A Comparative Study of Catechol and Gallol(水中接着剤用ホヤに着想を得たガロールポリマー:カテコールとガロールの比較研究)”という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク)
- Zhan, K. et al. (2017). Biomacromolecules 18, 2959–2966.
筆頭著者の他の論文
- “Antioxidant and Adsorption Properties of Bioinspired Phenolic Polymers: A Comparative Study of Catechol and Gallol”
背景 水中用接着剤には大きな需要があるが,水和による軟化や溶解の課題がある.ムール貝の接着機構(DOPA)を利用した水中接着剤の研究が進んでいる.ここでホヤの創傷治癒メカニズムが注目されつつある.
目的 ガロール基を利用した接着剤を合成.他のイガイガ模倣ポリマー系で系統的かつ詳細な研究を行う.
方法 スチレンP(St-co-BA),フェノールP(VPh-co-BA),カテコールP(VCat-co-BA),ガロールP(VGal-co-BA)の(1+)3種類のフェノール基を有する共重合体を,メトキシメチル保護/脱保護経路を用いて合成.
結果① 新たに合成したガロール基含有共重合体は,空気中,水中,海水中,リン酸緩衝生理食塩水中のすべての条件下で,接着力は硬化時間の経過とともに増加し,最も強い接着性能を示した(ラップせん断接着試験).ガロール基を26%含有するP(VGal26%-co-BA74%)は,最も高い接着強度を示した(水,海水,PBSの条件下で,それぞれ1.01±0.26,1.34±0.43,1.35±0.17MPa).これは市販のイソシアネート系接着剤より高い値であった.P(VGal-co-BA)共重合体の水接触角はP(VCat-co-BA)共重合体よりも小さく親水性が高い,P(VGal-co-BA)共重合体のWA(接着仕事)は空気中のP(VCat-co-BA)およびP(VPh-co-BA)共重合体の値よりも大きい.ガロールの高い接着力は,3座構造関連の界面相互作用(interfacial interaction)と化学的架橋(chemical cross-linking)によるものと考えられる.
結果② ダンベル型フィルムの引張強度試験でP(VGal-co-BA)共重合体の凝集性相互作用が高いことが確認できた.水中での機械的特性の経過変化が小さいことから,膨潤性が低いこともわかった.
結果③ 酸化による架橋がP(VGal-co-BA)内部に強い凝集性の相互作用をもたらすことをFT-IRで確認した.また,カテコール基がガロール基よりも酸化されにくいことがわかった.
結果④ さまざまな表面エネルギー,粗さ,および産業用途を示す基材(アルミ,ガラス,PVC,PTFE,豚皮)に対して接着特性を示した.
結論 ガロール基共重合体をMOM基保護法で合成,その方法を他のフェノール系共重合体の合成に応用し,これらの接着力を同一条件下で比較した. ガロール基含有ポリマーは,カテコール基含有ポリマーと比較して,すべての条件で優れた性能を示した.それぞれのポリマーのさまざまな基材上での接着強度も定量化し,ガロール基含有ポリマーは豚の皮膚をくっつけるのにも優れた性能を発揮することがわかった.
意見 ガロール基含有ポリマーは,豚の皮膚をくっつけるのにも優れた性能を発揮したことから,その後Hino(2020)の生体接着剤への繋がりを確認できた.
- イソシアネート系接着剤
- モノマーが流動した状態で表面に塗布され,その後重合する.重合反応はイオン強度など周囲の環境に影響される.ガロール官能基を有する共重合体は,すでにポリマー状態で基板に付着.
- Polymer Composition and Substrate Influences on the Adhesive Bonding of a Biomimetic, Cross-Linking Polymer
- Adhesion mechanism in a DOPA-deficient foot protein from green mussels
- 合成ガロール官能基化材料の接着剤応用を論じた研究
- Tunicate-mimetic nanofibrous hydrogel adhesive with improved wet adhesion
- Tunicate-Inspired Gallic Acid/Metal Ion Complex for Instant and Efficient Treatment of Dentin Hypersensitivity
- ホヤ被嚢(tunicate tunic)の関連論文
- New perspectives in the chemistry and biochemistry of the tunichromes and related compounds
- Novel 3,4-di- and 3,4,5-trihydroxyphenylalanine-containing polypeptides from the blood cells of the ascidians Ascidia ceratodes and Molgula manhattensis
- Structure of the Tunichrome of Tunicates and its Role in Concentrating Vanadium
- The crosslinking and antimicrobial properties of tunichrome
- Stimuli-Responsive Polymer Nanocomposites Inspired by the Sea Cucumber Dermis
- Cellulose in the house of the appendicularian Oikopleura rufescens