あひる日記

工学系大学院生の備忘録

【論文紹介】カテコール基含有セルロース系組織接着剤

鉄イオンを架橋剤として導入したカテコール基含有セルロース系組織接着剤の論文です.

  • 今日は,"Mussel-inspired cellulose-based adhesive with biocompatibility and strong mechanical strength via metal coordination(金属配位により生体適合性と強い機械的強度を有するムール貝由来のセルロース系接着剤)"という論文を紹介します.(論文サイトへのlink→リンク

    • Tang, Z., et al. (2020).  International journal of biological macromolecules144, 127-134.
  • この研究は, 中国,Fujian Agriculture and Forestry University, college of material engineering Lihui Chen's Lab のグループによるものです.(どのようなラボ?→リンク

背景  海洋生物であるイガイの接着機構を模倣した水中接着剤は一般的に石油化学製品や有機溶剤が使用されており,環境や生体適合性に問題がある.また,外科用接着剤において,ヒト血清から調製したフィブリンベースの接着剤(12.0 kPa)は無毒であるが,機械的強度は約12kPaと比較的低い.

目的  機械的強度と生体適合性に優れた環境に優しい接着剤として,主鎖を多糖類をベースとした高強度な水中接着剤の開発.

方法       TEMPO酸化セルロースとカテコール基を有する塩酸ドーパミンのアミド化反応により,カテコール含有接着剤を調製.接着剤の構造をUV-vis分光法,フーリエ変換赤外分光法(FTIR)および核磁気共鳴(1H NMR)法により解析.接着剤0.30 gを水1.0 mLに溶解,FeCl3粉末を溶液に添加して15分間撹拌後,豚皮を用いたラップせん断引張試験(48時間)により接着強度を測定.NIH 3T3細胞試験によって生体適合性を評価.

結果①   カテコール含量0%から16.5%(立体障害による上限)の一連のセルロース系接着剤を合成.カテコール基の増加によって,熱安定性が向上した.

結果②   接着力は,カテコール基の増加によって向上.カテコール含量16.5%において,Fe(Ⅲ)なしの時は20.0 kPa,Fe(Ⅲ)添加時(Fe3+とカテコールのモル比が1:3に近いとき)は88.0kPaとなった.理由としては,1 molのFe(Ⅲ)が3 molのカテコールと配位して安定なtris-complexを形成して凝集力とバルク接着性を高める,過剰なFe(Ⅲ)はbis-, mono-complexを形成し接着強度の向上には不利.配位結合(Fe(Ⅲ)添加時は30分後には完全なゲル状態)は酸化(14日後には溶液はキノンによる分子間架橋によって固化)よりも速い.

結果③   セルロース系接着剤上で培養したNIH 3T3細胞の相対的な生存率は,5日後に105%(70%未満であれば細胞毒性)となり,無毒性で生体適合性があることを示した.Fe(Ⅲ)によって生存率はわずかに上昇した.

結論       TEMPO酸化セルロースと塩酸ドーパミンのアミド化反応により,強い接着強度と良好な生体適合性を有するカテコール含有セルロース系組織接着剤を調製することに成功.カテコール含量が増加するにつれて接着強度は増加.Fe3+イオンの架橋剤の導入により,接着強度は向上し,硬化時間も短縮.セルロース系粘着剤のカテコール含量が16.5 mol%のとき,Fe(Ⅲ)-カテコール配位によりブタ皮膚に最大88.0 kPaの粘着力を示した.

意見       生体適合性はマウスなどの体内に移植してみるなどの追加実験が必要そう.体内においてセルロースは毒性を持たないのだろうか.また,水中接着剤として水中でアルミ試験片での引張試験をしてみてほしい.接着剤を水に溶かしているので,水中では溶け出してしまうのだろうか.セルロースは環境中で分解されやすいのか,鉄イオンによって分解が阻害されるのか.

  • セルロースを用いた水中接着剤として,同じグループが出している論文がある. Biocompatible Catechol-Functionalized Cellulose-Based Adhesives with Strong Water Resistance

  • 変性セルロースの生体適合性が気になる. セルロースを体内に入れた時,適合しないような文面を見たことがある気がするが,調べてみたい.