あひる日記

工学系大学院生の備忘録

【読書記録】搾取される研究者たち:産学協同研究の失敗学

2023/01/27 搾取される研究者たち:産学協同研究の失敗学

  • 初版発行: 2020年3月
  • 著者: 山田剛志

内容をざっくり解釈すると,共同研究をはじめとする大学の研究室・研究者と,産業界との関わりに対して,大学の研究室・研究者側が不利になっているのではないか,という事例と筆者の主張.

  • 共同研究における,企業と研究者の特許をめぐるトラブル

    • 発明者が誰なのか問題では,大学もTLOも研究者を守ってくれないので,改変できない形での実験ノートなどを記しておく必要がある
    • 職務発明制度によって大学が特許取得者になったとしても,その利益を上げる義務は負っていないため,共同研究先などが利益を独占しようとすることがある
  • 共同研究における,若手研究者に対するハラスメント

    • 研究業績よりも,獲得資金や共同研究数での評価が高いことが多い
    • 企業と大学との契約になっており,実際に責任を持つ研究室の教授や,実際の実験などを担当することになる院生とは契約が結ばれていないことが多い
    • 大学教員が大学よりも共同研究先の企業の利益を尊重するような行為をすると背任罪となることがある
  • 大学発ベンチャー企業の内実と,そこに勤めるポストドクターの待遇問題

    • 大学発ベンチャーの定義が曖昧
    • 「大学で達成された研究成果に基づく特許や,新たな技術・ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー企業」以外のものも大学発ベンチャーとカウントされていることがあるが,競争的資金を受けているのは先の定義のもののみ
    • 大学発ベンチャーがどうなれば成功なのかの定義がされていない
    • 競争的資金を受けることが目的で,十分な売上を上げている企業は少ない
  • 産学連携の流れ

    • 1998 大学等特別技術移転促進法(TLO法)
    • 2002 大学を起点とする日本経済活性化のための構造改革プラン
      • 知的クラスター(公的研究機関等を核とし,地域内外から企業等も参画して構成せれる技術革新システム)を日本でも作る

      これから大学の予算を減らすから,産業界と交流し,自らの研究を基に共同研究を行い,自ら研究費を獲得しなさい

    • 2003 大学教員の特許は大学帰属のものとなった
    • 2004 国立大学法人
      • 大学発ベンチャー期待
        • 企業の研究開発費削減,大学法人化による社会貢献への期待
        • 国の支援プログラムの充実
    • 2019 新株予約権(大学の知的財産権大学発ベンチャーに移す手法)

感想

  • ポスドクの説明や大学の環境説明などがしっかりなされていてよかった
  • ちょっと将来が不安になった.大学教員になりたい人だけが博士課程に進むのだろうか?
  • 少ない事例(筆者の経験)を述べているように感じた
  • それを踏まえると,なかなか主張が強いように感じた
  • 逆に,個人の事例が垣間見えて生々しさから来る説得力を感じた
  • アメリカなどの政策をそのまま?輸入したら日本では別物になっている,という雰囲気を感じた.よくある言説であって,もっと違う切り口にならないのだろうか.